【解説】日系アメリカ人として観る『SHOGUN 将軍』

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『SHOGUN 将軍』の世界をより深く知りたい方には、1980年シリーズ『将軍 SHOGUN』#ad、そしてジェームズ・クラベルの小説#adをおすすめします。

歴史の新たな解釈

日本の「戦国時代」をイメージすると、何が一番に思い浮かんでくるでしょう。激しくぶつかり合う刀の音?ヒューヒューと飛ぶ矢?戦場の叫び声?激しい戦いとバイオレンスが何年も続いた時代でもあるが、それに続いて江戸に幕府を開き、平和の時代を築いた徳川家康の歴史は、何百年経ってもポップカルチャーのインスピレーションとなり続けている。日本の時代劇や大河ドラマでは当たり前なことだが、最近は洋画#ad等にもこの歴史が登場している。

だがどこまで正確にこの歴史を描いているのかは、また別のチャレンジ。

FXの新シリーズ『SHOGUN 将軍』#adは、1975年に出版されたイギリス作家ジェームズ・クラベルの小説『将軍』#adをテレビドラマ化した作品。クラベルの書いた登場人物は全て架空の名前を持つが、日本の歴史とレガシーに大きく影響を与えた実際に存在した歴史上の人物に基づいている。ストーリーの中心には、徳川家康#adをベースにした「吉井虎永」が登場する。

徳川家康は今まで数え切れないほど時代劇類のメディアに登場してきたが、戦国時代や江戸時代がたとえ見慣れた背景となる場所であっても、『SHOGUN 将軍』は斬新なアプローチでこの時代と歴史上の人物を描き、日本だけではなく西洋の視聴者もその魅力に惹かれている。

写真:主演俳優及びプロデューサーとして活躍する真田広之

日本人向けに、日本人が制作したもの

『ティファニーで朝食を』に登場する「ユニオシ」キャラクターのような日本人の明示的な人種差別的描写は現代ではほぼ消えたが、今でもアジア系の人のイメージをゆがめて描写することは続いている。大げさな細目や出っ歯は映らなくなったが、現代ではアジア人をポップカルチャーで代表するギリギリ最小限の努力を認めるわけにもいかない。

たとえば、2005年に公開されたアメリカ映画『SAYURI』は京都の祇園で働く芸者の人生を描いているが、ストーリーの舞台が日本であることにも関わらず、主演女優はみんな中国人だった。渡辺謙など有名な日本人俳優も登場したが、多くのキャストは日本人ではなかった。

ハリウッド業界ではアジア系の人の役があれば、出身国や民族性にも関わらずアジア系の俳優をその役に選ぶことが一般的。西洋の視聴者からすると、その演じられているキャラクターをただ「アジア人」と認識し、特にその他民族性などについて深く考えないと思うが、アジア人のディアスポラでは何度も「アジア系のキャラクターは正確に該当するアジア人の俳優に演じてもらいたい」と意見を表してきた。つまり、あるキャラクターが日本人であれば、その役は中国人や韓国人ではなく、適切に日本人に演じてもらうこと。様々な国からきたアジア系俳優がたくさんハリウッドで活動しているのに、何故かこれほどシンプルな要求はハリウッドでは中々果たされていない。だからこそ『SHOGUN 将軍』は素晴らしい作品である:日本人のクルーが制作に大きく関わり、日本人のキャラクターを演じる俳優は全て真の日本人である。

写真:「虎永様!おー!」

真田様、万歳!

登場人物吉井虎永を演じる俳優真田広之は、『SHOGUN 将軍』のプロデューサーとしても活躍した。彼の活動をハイライトしたハリウッド・リポーターの記事では、彼が虎永を演じるなら、共に日本出身の俳優、クルー、そして時代劇のスペシャリストを雇うことが一つの重要な条件だった、と書かれている。プロデューサーとしてこだわられた部分を訊かれた真田氏は、「極力ステレオタイプの描き方を避ける、そして西洋化しない、現代化しない、1600年の時代に忠実に描くなどは強く意識しました。芝居はもちろん、美術もセリフも全て、いわゆるトレンドな表現はせず王道で行こうと」と答えている。

真田氏の努力は各エピソードで明らかに見られている。衣装、キャラクター同士の対話、全てが歴史的正確性を表している。西洋が作ったただの戯画の雰囲気はないが、ハリウッドにしか出せない豪華さがあり、普段の日本が制作している時代劇でみられないドラマチックさと強力な雰囲気、そして多額の予算がある。これこそ西洋と東洋の円満なコラボレーションだ。その効果は、国に関わらず両側から視聴者やファンが増えていることからみられる。字幕が読める限り、『SHOGUN 将軍』はみんなのために作られたシリーズでもある。

写真:大阪城

日本側の意見は?

『SHOGUN 将軍』が公開されてからは、世界中で視聴者とファンが増えている。その中で主に視聴率が高い国はやはりアメリカと日本。各エピソードが放送される後、ネットやSNSで話題になり、両国で解説やレビューを書く人が増えている。アメリカが制作したシリーズに関わらず、キャラクター同士の多くの対話は日本語、そして英語の字幕が付いている。日本語で話すシーンが多いため、日本人(特に若い人)もこのハリウッド作のシリーズに興味を持つようになった。日本ではディズニープラスの動画配信サービスで簡単にアクセスできるため、アカウントがあれば非常に見やすい。

全体的に、日本側からのフィードバックは今までとても好評なコメントばかり。真田広之、澤井杏奈、浅野忠信など、見慣れた顔の俳優が一流のハリウッド作品に出演しているため、ファンはその好きな俳優をサポートするために毎週放送される新エピソードを観ている。日本の歴史に興味を持つ者もその描き方を気になってシリーズを観ている。

最近掲載されたYahoo!ニュースの記事では、『SHOGUN 将軍』の素晴らしさを誇り高く褒めていた:「『どれをとっても妥協なし』松平健ら″歴史もの″に造詣が深い人々から賞賛の声!」と書かれていた。

「暴れん坊将軍」シリーズで長年徳川吉宗公を演じてきた松平健は、「真田さんが将軍役さながらにプロデューサーとして陣頭指揮を執り、衣装、所作、殺陣など、どれをとっても妥協のない完璧な時代劇を作り上げてくれた。″時代劇″を正しく世界に広めてくれたことに感謝するとともに、その情熱を心から応援しています」と、真田の手腕を絶賛。

Yahoo!ニュース

あるファンはX(旧ツイッター)のSNSでこう投稿した:「将軍SHOGUNも忍びの家HOUSE OF NINJAもGODZILLAマイナスワン#adって続けて日本関係の作品が世界で人気出るのが嬉しくなるね。どれもめちゃ面白いし納得。」

写真:黒澤明監督作の時代劇(写真提供:BFI

難しい内容

前述のYahoo!ニュース記事によると、『SHOGUN 将軍』は「歴史ものと聞くだけで、登場人物に共感できない、当時の時代背景がわからない、といった理由から敬遠してきた人」、つまり普段は時代劇や歴史に興味がない視聴者を、シリーズの魅力で惹いていると書いている。

1960年代から日本で放送されている「時代劇」とは、日本の歴史に出てくる様々な歴史上の人物や期間を描くテレビドラマ、映画、アニメ、そしてゲームを含むジャンルのこと。全国で一番知られている時代劇といえば、おそらくNHKの大河ドラマ。大河ドラマはほぼ1年間の間放送され、毎年テーマ、キャラクター、キャストなどは変わるが、ストーリーの内容は必ず日本の歴史からインスピレーションをもらっている。同じ歴史上の人物が、それを演じる俳優が変わりながら、何度も登場するパターンは時代劇では一般的なこと。

私の想像では、時代劇とは祖母のような年配の人しか観ない、40歳以下の若い人は絶対興味がないものだと思っていた。幼い自分はテレビで時代劇を見かけると、対話が多すぎて刀を抜くドキドキの瞬間や戦いのシーンが足りなく、退屈にしか思えなかった。出演する女優が着ている美しい着物だけには目が惹かれたが、それは単に「私も着てみたい」と願望があったから。

大学時代の私はその歴史自体が面白いと思ったが、古めかしい日本語の言葉や文法、歴史に関する専門用語、重要な人物の覚えにくい名前など、分かりにくい部分がありすぎて全体的にストーリーを楽しむことができなかった。英語の字幕でその問題を解決しようと思っても、字幕付きのエピソードは怪しいウェブサイトでしかアクセスできなった。

高齢者向けだけではない時代劇

『SHOGUN 将軍』は、この興味深い歴史の魅力を更に幅広い視聴者に伝えるよう、若い人のことも考えて内容をより分かりやすく、面白く描き、字幕の力で世界中の人に観てもらうことを達成している。私はネイティブバイリンガルのスピーカーであっても、いくら英語がペラペラでもシェイクスピアを読み始めた頃は意味が直ぐには理解できなかった。日本語も同じく、時代劇の古い日本語だと簡単に頭に入ってこない。字幕のお陰で内容が分かりやすくなったうえ、『SHOGUN 将軍』のストーリーは1年間の放送ではなく、たった10話にまとめてあるため、長くて退屈な対話のシーンもほぼない。このシリーズは、日本の歴史を学ぶことをこれまで以上に魅力的なものにしている。

日本作の時代劇のなかでも、若い人に向けてアピールする努力はみえている。去年の大河ドラマ『どうする家康』#adでは、『SHOGUN 将軍』の吉井虎永と同一人物である徳川家康を、元アイドルグループ「嵐」で活動していた俳優松本潤が演じた。しかし、日本の低予算や少し固い制作スタイルにより、日本人のなかでも若い人は今まで時代劇に強く興味を持たなかった。ハリウッドならではの日本の歴史の描き方、多くの予算を投じたことも含めて『SHOGUN 将軍』はより多くの視聴者の目に触れている。

写真:コスモ・ジャーヴィス(ジョン・ブラックソーン)とネスター・カーボネル(ロドリゲス)

白人問題

ハリウッドがアジアを中心にして制作した映画やドラマを振り返ると、問題のあるアプローチや描き方が多くの作品にみられている。特に白人のキャラクターをアジア人の上として描き、「白人の救世主」のイメージを作り上げる作品が多い。『SHOGUN 将軍』のストーリーには重要な白人の登場人物が数人いるが、主なキャラクターはイギリス出身の船員、ジョン・ブラックソーン。彼の船は虎永の領地である網代の海岸で遭難し、「按針」とニックネームを名付けられる。ブラックソーンのキャラクターは実際に存在したイギリス人船員、ウィリアム・アダムスに基づく。アダムスは史上初めて日本に辿り着いたイギリス人であり、徳川家康の下に侍として任命された。親日家にとっては、まるで夢が叶ったようなことだ。

船を取り戻して日本から抜け出すことが不可能となったブラックソーンは、しょうがなく虎永の統治に従い、周りの新たな環境の見慣れない人、言語、文化について教わるしかない。日本での生活に対するブラックソーンの違和感は、シリーズとして上手にアプローチしている。一週間に一回しか風呂に入らないことや、着物に中々慣れず不器用に動くブラックソーンは、明らかに部外者として描かれている。一方、虎永の下に通事としてブラックソーンを助ける貴婦人の戸田鞠子は、按針の奇妙な髪の毛や目の色、その他白人特殊な特徴に気付くが、外国人および白人であるから崇拝することは決してない。

白人の救世主⁈

ブラックソーン自体は、『ラストサムライ』のトム・クルーズのように直ぐにみんなの助っ人としてみられない。第1~3話では、彼はただイライラした人質として大老衆の間に振り回されるが、一方ポルトガル人の秘密行為について詳しいうえ、機転を利かすことができる。第4話「八重垣」では、藪重の大砲隊に教えられる戦術の知識はほぼないが、代わりに海戦術を教えることができる。ヒーローではないが、少しずつ自分の価値を周りの日本人に証明している。

按針は虎永に旗本として昇進されるまでは、周りの人に「蛮人」と呼ばれている。旗本になった後でも、密かに蛮人と侮辱する者もいる。この扱い方は、普段のアジアを中心にした洋画に出てくるアプローチではない。ブラックソーンは決して「白人の救世主」にならず、自分の努力で自分の価値を証明し、試行錯誤から学びながら周りの日本人の尊敬を勝ち取らなければならない。さらに、彼の進歩は日本人を犠牲にして得たものではない。多くの洋画では、アジア人のキャラクターを「去勢」、つまり弱体化した描き方で白人のキャラクターを視聴者の目線から高めている。『SHOGUN 将軍』はこの固定観念を上手く避けている。プロダクション側ではしっかり「白人の救世主」を出さないよう、日本人の意見も含めて脚本を書いている。

写真:澤井杏奈(戸田鞠子)

最後に

この記事のオリジナル・英語版の執筆時点では、『SHOGUN 将軍』の後半のエピソードはまだ放送されていなかった。しかし前半のみを観ていても、このシリーズは期待できるものだと明らかだった。バイオレンスやセックスがストーリーの中心になくても、ドキドキする刺激的なシーンが沢山あり、政治的な対話までテンションが高く、全て観てて面白かった。重要な歴史上の人物の名前をいちいち覚える必要もなく、退屈を一度も感じないように日本の歴史をスリリングに描いている。シリーズ全体の歴史的正確さに関わる細部にわたる細心の注意には、日本人のプロデューサーやクルーが加わった努力が輝いている。日系アメリカ人としては、大きく異なるが、同じく魅力が沢山ある二つの世界の完璧なコラボレーションだ。

写真提供:FX

スナイダー・オリビアは米国出身の日系アメリカ人。現在は日本在住、バイリンガル(英⇔日)翻訳・通訳者として働いている。趣味はスノボ、ハイキング、旅行、そしてグルメ巡り!

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「ザ・パス」(「道」)は、芸術・文化・エンタメを取り上げるバイリンガルのオンライン雑誌。サイエンスフィクションとファンタジー系の大人気映画・テレビシリーズ・ゲームの徹底的なレビュー、ニュース、分析や解説などを提供している。

知的財産とメジャーなフランチャイズを深く調べることで読者および視聴者の皆さんの大好きなシリーズ本、映画、ゲーム、テレビシリーズについて新鮮なコンテンツを作っている。主に『ウィッチャー』、『サイバーパンク2077』、『ロード・オブ・ザ・リング』、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』、『フォールアウト』、そして『SHOGUN 将軍』を取材している。

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