【ネタバレレビュー】『イカゲーム』シーズン1+2

文:ベンジャミン・ローズ(Read in English

訳:スナイダー・オリビア

衝撃的な『イカゲーム』シリーズのファイナルとなるシーズン3は、年内に公開予定。「ザ・パス」はこの大人気韓国ドラマを最初から最後まで深く分析したが、結局のところ大した印象は残されなかった。

スコア:シーズン1は75点、シーズン2は65点

ストーリーの前提を理解することはわりと簡単。韓国を舞台とした『イカゲーム』では、456人の大借金を抱えている人間がスカウトされ、謎の組織が年一回に開催する「バトル・ロワイアル」風の子供の遊びをテーマにしたゲームに参加する。ゲームに勝つか、死ぬか。他の選択肢はない。最後まで生き残った一人の生存者は、賞金として456億ウォン(約48.6億円)をもらう。2021年に公開された『イカゲーム』は、リリース後に素早く世界的な話題となった。94国でネットフリックスのランキングナンバー1に達成し、エミー賞を6つ、全米映画俳優組合(SAG)賞を3つ、そしてゴールデングローブ賞を1つ受賞した。シーズン1はネットフリックスの最も視聴率の高い作品の中で、リリースから3年以上経っているのに関わらずナンバー1のランキングを保ち続けている。シーズン2も同じく、ほぼ同レベルの成功に達成し、92国で視聴率ナンバー1となったが、シーズン1公開からの3年間の合間と連動して批評家からの評価が少し下がっていた。

『SHOGUN 将軍』に先立って、『イカゲーム』は第74回プライムタイム・エミー賞でドラマ部門の作品賞を受賞し、英語以外の言語の番組が作品賞を受賞するのが初めてとなった。主演俳優のイ・ジョンジェは主演男優賞を受賞し、同じく初アジア人および初英語以外の言語を話す受賞者となった。『イカゲーム』のインパクトに続けて、モキュメンタリー、リアリティ番組のスピンオフ作品、『サタデー・ナイト・ライブ』のコメディー寸劇(上記リンク)など、様々な作品が生まれた。しかしそれがそうだとしても、このレビューを書くために16時間をかけて初めて『イカゲーム』を最初から最後まで観たら、正直に言うと「まあまあだった」の評価しか出なかった。

良い作品だが素晴らしいとまでは言えない

そして、メディア上では大げさに騒ぎ立て過ぎていた。フィクションの作品となると、完全に斬新であることは必要な条件ではない。現代では完璧な「オリジナルさ」は可能ではないため、多くの『イカゲーム』の批判者が述べた「このストーリー・テーマは観たことがある」という文句は正直真剣に受け止めていなかった。たとえある物語が馴染みの内容であっても、作品によってまだ視聴者の心に新しく響く可能性がある。たとえば、『サイバーパンク:エッジランナーズ』を観た人は、第4話を観た時点ですでにどのような結末が待っていたか予測できていたが、最終のエピソードにたどり着いたら、それはしっかり満足感を与えていた。『イカゲーム』シーズン1の一番の魅力は、「殺し合い大会」の見慣れたテーマに新たな緊張感と大虐殺の重み、そして予想外の展開と印象的な登場人物を与えたことだ。しかし、このアプローチはパーフェクトではなかった:シーズン1ではカン・セビョク、チャン・ドクス、そしてハン・ミニョのキャラクターのバックグラウンドの展開が足りず、『イカゲーム』の架空の世界の構築ももっと広げてほしかった。とは言え、これらの人物の描き方によりその人生と死は視聴者の心を打つことに成功した。シーズン1を観終えた時点では、それは哲学的に思索するゴールを完全に果たせてなくても、シリーズの達成を尊敬することはできた。

しかし、イカゲームの終わり間近にソン・ギフンとチョ・サンウがサバイバルの倫理について言い争うシーンのように、時には台詞や対話のクオリティが落ちていた。 もっと明確な原則についての議論が必要な場面で、小難しいタフガイ的な侮辱へと悪化してしまった。たとえば、割れたガラスで大怪我を負ったカン・セビョクがチョ・サンウに殺される、シーズン1で一番残忍とでもいえるシーンは、残念ながら十分に活用されていなかった。サンウは、イカゲーム自体の目的を完全に読めていたからこそ悪事の道へと進んだ。数人の勝者が出ることは完全に不可能だと気づいていたサンウは、友達を殺すことで、その状況に対する一番合理的な選択肢を選んでいた。逆にギフンはその事実を否定し続け、最後のゲームでギフン自身が負わせた刺傷の影響で失血死したサンウが死んだ時点で、やっとギフンはそれを理解した。

収穫逓減

シーズン2では、『ハンガー・ゲーム2』のように、脚本家・監督のファン・ドンヒョクはイカゲームを観る細かいレンズを広げ、ゲームの企画者である組織と韓国社会における金銭欲の結合、つまり『イカゲーム』の世界で30年以上も続くゲームがなぜ存在するのか、をより深く探ることにフォーカスを変えたことは同然。しかし、シリーズは資本主義社会を批判していても、『イカゲーム』シーズン2は誰が何の目的でイカゲームを企画しているのかという実態をはっきり表すことができず、視聴者がそれを納得できるように描くことにも失敗している。シーズン1と2を通して『イカゲーム』は殺し合いのゲームを企画する理由、その支持者、そしてゲームを支える哲学を何度も説明しようとしているが、その説明自体が弱いため、視聴者としてシリーズの伝えたいことが納得しづらい。

イカゲームの由来とは、超富裕層のために作られた退廃的な競馬場であり、シーズン1のゲームで正体を隠して参加したオ・イルナムが、金があり過ぎて人生が退屈になってしまった億万長者の友人たちを楽しませるためにこの大会を創設した。2015年に開かれたイカゲームで優勝し、警察官ファン・ジュノの消えた兄であるファン・イノは、ゲームのフロントマンとして活躍する。

オートチューンがない悪

この前提は、正直に言うと少しばかばかしい(経済的なストレスがないのに、突然生きる気力を失う人はまずいない)。シーズン1の後半では、イカゲームのスポンサーであるVIPの様子が観られる。彼らは、バスローブと虎などの動物の仮面を被った、太った中年の白人男性。この悪人の描き方は、このようなシリーズにおいて予想通りだった。 21世紀のスーパーヴィランの財力とはどのようなものなのか、と想像力に欠けて本質的には20世紀の貧乏人の視点を前にしたこの描き方により、私は『イカゲーム』の「全体像」にあまり期待も興味も抱かなかった。シーズン2が進むなか、スカウトマンやフロントマンなど、ゲームを社会の 「ゴミ 」を排除するための有効な手段に過ぎないと擁護する人々と、新たに石頭となったギフンが言い争う姿にイライラするようになった。

資金を提供し、ゲームを管理する者たち自身がゴミクズであることが目立つシステムの中で、特にファン・イノを筆頭とする悪役たちが、自分たちの行為のあからさまな偽善を正当化しようとする執念は、後半のシーズンでは何度も平板になった。男は悪事を働かせることに夢中になっている時は、互いに噓をつき合い、自分にも噓をつく。『イカゲーム』のより効果的なシーンでは、この概念が強く描かれている。たとえば、シーズン2第1話でソン・ギフンがスカウトマンとロシアンルーレットの賭けをする瞬間は、シリーズ最高のセットピースのひとつである。しかし、ギフンを殺して負けを認めるよりも、自殺を選ぶというスカウトマンのサイコパス的決断は衝撃的だが、これほどはっきりしたことはめったにない。

フロントマン

ファン・イノはもともと妻の癌治療を支援するためにイカゲームに参加し、賄賂の冤罪で解雇された後、社会への嫌悪を爆発させたようだと明かされても、大量殺人のシステムを何年も管理し守り続けるという彼の選択を説明するには、あまりにも薄っぺらな前提、あるいは少なくとも不十分な表現に思える。

オ・イルナムが単に退屈していただけだとすれば、ファン・イノの動機は、シリーズがここまで進んでも、私にははっきりしない。彼は社会を守り、腐敗した要素を 「浄化 」しようとしているのか、それとも社会が燃え尽きるのを見たいのか。イ・ビョンホンの俳優としての重厚さと、彼がこの役柄に見いだした力強さと抑制の感覚は、フロントマンが物語のこの時点では必要以上に無名で一面的であるにもかかわらず、漫画の悪役に堕することがないことの証左である。「人間はクズ、社会はクズ、退廃的で抑圧されたゲーマーは自由に成功する権利がある(しかし、死ぬべきでもある)」ということに加え、ゲームのイデオロギー全体が、いまだに紙芝居のように感じられる。イ・ジョンジェの礼儀正しさ、つまり、冷静で合理的で共感的ですらある外見、残忍な暴力の能力を秘めた無神経な高校の数学教師のようなものを描く能力によるところが大きい。

結局のところ、『イカゲーム』は、ずっと続くというよりも一瞬だけ人気を持ったシリーズだったと感じる。『イカゲーム』はコロナパンデミック真っ只中にリリースされ、目新しさと競合作品の弱さにより一部爆発的にヒットしたフランチャイズである。最高の出来であれば、視聴者の興味を惹くドラマを作ることができたが、『SHOGUN 将軍』のような優れた外国語番組の成功のためのコンセプトの証明となっただけで、そのレガシーは儚いものになりそうだ。『ザ・パス』は、『イカゲーム』シーズン3のリリースに合わせて各エピソードのレビューを掲載する予定。

写真提供:ネットフリックス


「ザ・パス」(「道」)は、芸術・文化・エンタメを取り上げるバイリンガルのオンライン雑誌。サイエンスフィクションとファンタジー系の大人気映画・テレビシリーズ・ゲームの徹底的なレビュー、ニュース、分析や解説などを提供している。

知的財産とメジャーなフランチャイズを深く調べることで読者および視聴者の皆さんの大好きなシリーズ本、映画、ゲーム、テレビシリーズについて新鮮なコンテンツを作っている。主に『ウィッチャー』、『サイバーパンク2077』、『ロード・オブ・ザ・リング』、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』、『フォールアウト』、そして『SHOGUN 将軍』を取材している。

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