文:ルイス(Read in English)
訳:スナイダー・オリビア
『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』が初演された頃は、世界中のファンをがっかりさせた『ゲーム・オブ・スローンズ』の終わりとなったシーズン8に続いて、フランチャイズがやっと復活したルネサンスのように感じた。2022年に放送された『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』シーズン1は、『ゲーム・オブ・スローンズ』を10年間も続いた文化的現象へと変えたマジックをよみがえらせた。しかし、今年放送されたシーズン2となると話が違う:シーズン1が掴んだ視聴者を惹く魅力を無くし、残念ながら多くのファンはがっかりしていた。
執筆時点では、シーズン2のフィナーレエピソードは映画評論サイト「ロッテントマト」でのスコアはたったの48%、IMDbでは10点のうち6.4点。点数や評価が非常に低いことは、これまでのエピソードにたくさんの誤りがあった証拠だ。一体どうなったんだ?ミスはどこから始まったのだ?「ドラカリス!」と応援したファンの声は今は「どうしてこうなったんだ⁈」の苦情へと変わっている。
舞台裏のチャレンジ

はじめに、ショーランナーの1人だったミゲル・サポチニクは、シーズン1を終えて職を去ることになった。サポチニクは『ゲーム・オブ・スローンズ』の中で最もクオリティが高いエピソードを監督した重要な人物であるため、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』を辞めてからの彼の不在の影響は明らかだった。やはり彼がメインスタッフにいなかったことは大きなロスとなった。シーズン1と2を比較すると違いが多すぎる。なぜサポチニクは職を去ったのか?ニュースによると、その理由はHBOネットワークがサポチニクの妻をプロデューサーとして再び雇ってくれなかったかららしい。このようなリーダーシップの大きな変化があれば、シリーズにも大きな影響を与えることは当たり前なこと。
続いて、エピソード数の問題もある。シーズン1は全部で10話あったが、シーズン2はたったの8話しか与えられなかった。HBOは「ストーリーのため」だと、エピソード数をカットしたと言い立てているが、明らかにそれは誤魔化し。本当の理由はコストを減らすためだった。理由に関係なく、その影響でシーズン2のペーシングと登場人物の展開はめちゃくちゃだった。加えて全米脚本家協会(WGA)と映画俳優組合(SAG)のストライキがプロダクション期間と重なり、撮影が始まっていても脚本家たちは脚本を変えたり書き直すことは、ストライキの決まりにより許されなかった。タイミングが悪かったのもあったが、脚本家側では両手は縛られていた。
スクリーン上の過ち
実際に放送された完成のエピソードを分析しよう。そこから主な問題が始まった。
はじめに、ペーシングは非常に遅かった...シーズン2のペーシングは作家ジョージ・R・R・マーティンが新しい本を書くスピードよりも遅く感じた。多くのエピソードは登場人物がのんびりとして行動をとらない場面ばかりを描き、戦で戦う約束をしていても結局それを果たさず、小評議会が話し合う退屈な会議のシーンばかりを観ていた気がする。緊迫の雰囲気を作り出すためには時々ゆっくりしたペーシングが必要だとは分かっているが、これはあまりにも面白くなかった。重要な展開は延期され、視聴者の私たちはずっと期待していた紛争を待ち続けたが、その始まりはシーズン2の最終回でチラッと描かれただけ。
登場人物の展開の問題もある。シーズン1に描かれたレイニラとアリセントは、複雑で様々な面を持つ興味深いキャラクターだったが、シーズン2の描き方は薄く、シーズン1の二人の面影はあまり残っていなかった。二人の秘密のランデブーはドラマチックだったが、それも無理して脚本に書かれた、二人の柄にもない行動に思えた。シーズン1が面白かった主な理由は登場人物の道徳的な曖昧さだったが、シーズン2ではそれを再現することはできなかった。
対話の脚本の悪化も信じられなかった。名台詞はどうなった?鋭い機知は?シーズン2の多くの対話のシーンは、登場人物の意欲を明かしたり視聴者を考えさせるよりもただ単にストーリーを進めようとしていると感じた。
加えてシリーズは「壮観」に頼りすぎだ。デイモンの予知夢や幻視は見た目的に面白かったが、ほとんどのシーンではメインのストーリーから外されている感じがした。まるで十分肉付けされていないストーリーから気を散らすために、キラキラしてるけど内容にほぼ関係ない映像を描いていたかのようだ。
視聴者が興味を失った理由
シーズン2はなぜファンや視聴者に微妙な印象を残したのか?理由はいくつかある。
まずは、放送前のプロモーションの内容と実際に放送された内容が大きく異なっていたこと。多くのシーズン2のPR(CM、SNS投稿など)は「黒装派対翠装派」の紛争を中心にし、それを観た視聴者はシーズン2の主な内容が黒対翠の戦争だとつい思い込んでいた。しかし放送されたエピソードではそのようなストーリーはほぼなかった。それを観たファンたちが騙された気持ちになるのはおかしくない。
正直に言うと、『ゲーム・オブ・スローンズ』と『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』シーズン1は、ファンの期待を非常に高く設定していた。視聴者として期待していた内容は驚きの政治的陰謀、深い登場人物の展開、そして印象に残る予想外のストーリーのツイストだった。シーズン2がそれを果たせなかったことに気付くとさすがに落ち込んでしまう。
ストーリーのビルドアップは十分あったが、その〆となるクライマックスや結末はなかった。視聴者の興味を最初に掴んでいても、このパターンではそれはもたない。全8話がストーリーを作り上げるゆっくりした内容なら、視聴者を惹くために「将来に面白い出来事があるから待ってて」と約束するだけじゃ物足りない。重要なシーズンフィナーレがここまで評価が悪かったら、全体的にショーランナーの判断が間違っていたことが明らかだ。
かすかな希望の光
とはいえ、全てがマイナスなわけではない。シーズン2にはメリットも少々あった。プレミアエピソードで描かれたジェヘアリーズ王子の暗殺など、小説『炎と血』の原作から直接使ったストーリーの展開はとても面白かった。その残忍さはあのジョフリー・バラシオンでも驚くでしょう...〈深山鴉の巣城〉の戦いは本当に素晴らしい一話だった。フランチャイズの数多い魅力を活かすと、どれだけ良いエピソードが作れるか思い出させた。しかし褒めるべきシーンやエピソードがあっても、よりシーズン2の物足りないと思った部分を思い出してしまい、余計にがっかりしてしまった。
一方、脚本のクオリティが落ちていてもキャストの俳優たちは皆それぞれの素晴らしい演技力を活かしている。それこそ視聴者に希望を与えている。脚本さえ向上すれば、キャストの力でまたこのシリーズはトップへ戻ることができるでしょう。
シーズン3に向けて、シリーズの将来について慎重な楽観論を示す必要がある。シーズン2からカットされた2話はシーズン3のプレミアとなり、ファンが楽しみに待ち続けてきた〈双竜の舞踏〉の次のバトルはきっと描かれるでしょう。それが新シーズンの衝撃的な始まりとなると思われる。
ジョージ・R・R・マーティンは〈双竜の舞踏〉の物語を語るには、エピソードが10話づつ与えられたシーズンを全部で4つ作る必要があると伝えている。ショーランナーが彼のアドバイスを聞けば(是非聞くべきだと思う!)、将来にはより良いペーシングと登場人物の展開が出来上がるかもしれない。
最後に
最終的に、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』シーズン2はターガリエン家の親族会のようだ:ポテンシャルはあるが、結局めちゃくちゃになってしまう。このシリーズは性格描写を中心にするかファンタジーエピックになりたいか中々決められない曖昧さにより、逆に両方のテーマを描くのに果たせていない。
シーズン2を振り返ると、逃した好機のように感じる。シーズン1を通して素晴らしい基礎を立てていたが、どうしてもそれに基づいて『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の世界を広げることができなかった。舞台裏やネットワーク側の問題も数々あったが、ショーランナーなどの独創的な判断によりシーズン2のマイナスが増えた。
このシリーズは本当に次の『ゲーム・オブ・スローンズ』になりたいのなら、その基礎に戻るべきだ。複雑な登場人物、シャープな対話、そしてゆっくりとビルドアップする政治的陰謀と爆発的な戦いの間のバランスが必要だ。堂々と物語を描いていく勇気も必要だ。サーセイ・ラニスターのように複雑、ティリオンみたいに鋭くて賢い、そしてネッド・スタークのように栄誉ある(そして運の尽きた)キャラクターが欲しい。アリアの剣よりも鋭い対話を聞きたい。ショックだけじゃ足りない…何かを感じさせて欲しい。最後に、戦争を約束するならその約束をちゃんと守れ!
シーズン2の廃墟の下にはまだポテンシャルがかすかに隠されている。『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』には、まだシーズン1の素晴らしさを再現し、それを超えてトップに戻るチャンスがある。〈双竜の舞踏〉はまだ終わっていない。シーズン2で消えてしまった火が、シーズン3でまた復活するか楽しみに待っている視聴者やファンもたくさんいる。
このシリーズがまた回復できることを願っている。このシリーズのピークは、他のテレビ番組全てを超えている。お願い、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』...また火をおこせ!
写真提供:HBO
All photos are property of HBO.
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