スコア:75点
こんなことを言うとは信じられないが、期待外れの子供の斬首と『ファミリー・ゲーム/双子の天使』のストーリーに似たバカバカしい暗殺計画に続き、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の第3話はやっと物語る能力のピークに戻ってきている気がする。「燃える水車小屋」は第1と2話に比べて落ち着いている方でもあるが、政治的な紛争のテーマに戻ることでこのフランチャイズの良さを思い出させる。
このエピソードでは、黒装派と翠装派の間の不和のリアルタイムで起きる結果、性急な男たちの悪い決断、そしてレイニラとアリセントの久々の再会が描かれる。ゆっくりしたペースで、ドラマチックなアクションシーンや炎に包まれたドラゴン同士の戦いはないが、それに関わらず良きエピソードである。復習に入ろう(ネタバレあり!)。

地元住民たちのもめ事
「燃える水車小屋」はコールドオープンのような始まりで幕を開ける。敵対する二つの部族、ブラッケン家とブラックウッド家の若者たちが争い合っている。交わす幼稚な侮辱は、素早く真なる唯一の王/女王を宣言する喧嘩へとエスカレートする。名前も知らない子供同士の口喧嘩は最初はくだらないと思えるが、その紛争が酷く悪化するのに長くはかからない。エピソードは若き男の子が同い年の相手を剣で脅すシーンから、急に残忍な虐殺のシーンに移行する。ついさっきまで少年たちが立っていた野原には、数百人または数千人の遺体が血を流している。戦場の向こうに水車小屋が燃えている。
この戦いのシーンを実際に描かないHBOの判断について、ネット上では意見が分かれているが、その判断も実用的なストーリー作りの手法である。黒装派と翠装派、双方はすでに息子を一人亡くしているが、まだ真に壊滅的な行動は互いにとっていない。しかし彼らの争いは地元レベルで破壊的な結果を出している。前話では貧しくて飢えたキングズランディングの平民たちの日常を見ることができたが、今回はこの対立が王国全体にどのような波紋を広げているか見れた。
強い女たち
ドラゴンストーンでは、レイニラとレイ二スが見守るなか、前話の戦いで亡くなった双子のカーギル兄弟は共にお墓に埋葬される。レイニラよりも冷静で賢明な年上のレイ二スは、戦となれば、迫ってくる戦争に勝つための最善の方法について女王に厳しく説く。
シーズン1から私はずっとレイ二スのキャラクターを推してきた。イヴ・ベストの演技力は本当に素晴らしく、レイ二スは目立たない立場や能無しの男ばかりの軍議にいるなかでも、威厳のある存在感を保っている。冷静で有能なリーダーでありながら、女性であることだけで常に見落とされてしまうことに口を閉ざした彼女の苛立ちが、今のレイニラが歩む道をすでに開いている。「戴冠せざりし女王」と呼ばれることに対する恨みは一生消えないが、権力争いに明け暮れる生意気で欲深い男たちのなかで、レイ二スは安定と平静の柱である。レイ二スが登場するシーンはどれも最高だと思う。加えてウェスタロス内で唯一の幸せの結婚生活を成功させている人でもある、しかも血縁関係にある相手ではないこともボーナスだ(家族の一員と結婚してないことは影響あると思う)。
ぐずぐずするデイモン
このエピソードのデイモンの展開は、一番つまらなかった。嵐のなか、鎧を着けたデイモンを背負うドラゴン「カラクセス」はボロボロのハレンの巨城に到着する。そこでデイモンは、殺されたライオネル・ストロングの叔父、サイモン・ストロングがのびのびと晩御飯を食べているところに割り込む。サイモンは素早くレイニラに忠誠を誓うが、「どっちでもいい」感が明かだ。サイモンにとっては、デイモンとクリストン・コール、単純に誰が先にハレンの巨城に着くかの問題だった。
レイニラと喧嘩をし、𠮟られた不機嫌な子供のようにドラゴンストーンを去る以来、私たちはデイモンを見ていない。喧嘩中でもレイニラの味方を増やしていることはとりあえず良いこと。しかしこのようなストーリーの展開は『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の一番の弱点。大事そうな内容だと気はするが、視聴者として真正にその展開に興味を持つことはできない。残念ながら、このような脚本の弱い部分となると、デイモンのキャラクターが普段巻き込まれる。
少女時代のレイニラ(ミリー・オールコック)が、殺されたジェヘアリーズの首を糸で体に縫い付ける悪夢を見るデイモンは、目が覚めるとハレンの巨城の中庭にいる。そこでは不思議な無名の女が現れ、「君はここで死ぬ」と不気味なメッセージを残しそっとその場を離れる。この予知はシーズン2で実際に叶うのか??それは時間がたてば分かること。今のところ、デイモンはただハレンの巨城でのんびりしているだけ。残念ながらシーズン1のカッコイイ戦士のデイモンは登場しない気がする。
意気地なしなクリストン
翠装派側では、クリストン・コールのクソみたいな性格は変わっていない。加えてまだまだ彼のキャラクターが死ぬ気はしない。視聴者全てが嫌うキャラクターでもあるが、俳優ファビアン・フランケルも間違いなく演技力が高い。第2話の挑戦的態度のクリストンは生意気で自信過剰だったが、小評議会議に遅刻したことからみて新しい王の手の役割を果たせるか緊張していることは明かだ(それか髪の毛のスタイリングに時間がかかったのかな?)。
エイゴンは相変わらず、どじばかりする鈍くさい人。彼は簡単にラリス・ストロングや他の小評議会のメンバーに操られていることに一切気付いていない。エイゴンが声を上げる度にアリセントがうんざりしている気持ちは明かだ。エイゴンはドラゴンに乗って戦場に出るか、お城に残るかコロコロ考えを変えるが、最終的に残ることにする(と言うより、残るよう操られる)。
その後、クリストンはアリセントの高慢な兄グウェイン・ハイタワーを連れてキングズランディングから出発する。だが彼らが旅する途中、不運にもドラゴンのムーンダンサーに乗ってパトロールするベイラ・ターガリエンに見つかる。クリストンがカリカリに焼き殺されるのを見たいところだが、ベイラは祖母のレイ二スに似て冷静な性格。クリストンの護衛を追い詰めるために森を全て燃やすよりも、ベイラは自制心を働かせ、クリストンを目撃したことを報告しにドラゴンストーンに帰る。
これはドキドキするシーンだ。ターガリエン家の人間が落ち着いて恐れずにそれぞれのドラゴンと接触するところをいつも見ていると、ドラゴンとは非常に危ない殺人兵器であることが忘れやすい。森林限界に向かって必死に馬を走らせるグウェインのおびえた顔をみると、この生きた武器を利用する戦争の険悪な争いと、その壊滅的な結果を思い出させる。
セプタ・レイニラ
このエピソードは見事な演出で幕を閉じたが、これからさらに暗くて暴力的な出来事が起こることを予感させるものでもあった。全面戦争を避けるための最後の手段として、レイニラはセプタの格好をしてキングズランディングに侵入し(ここは一体誰が見張っているんだ⁈)、アリセントが普段一人でお祈りしに行く教会にこっそり入る。意外な再会のなか、レイニラは平和な手段を求めてアリセントを説得しようとする。アリセントにナイフを突きつけることは逆効果なのでは...?
レイニラとアリセントの間の対話のシーンはこのシリーズの大きなハイライトの一つである。少女時代の親友であることから二人の関係は始まり、続いて居心地が悪い義母と継娘の関係に変わり、今は争い合っている派閥に分かれてしまい敵となった二人の女性は、今まで色々な苦しみに耐えてきた。複雑な関係でもあるが、彼女たちの展開はシリーズのより良く作られている部分である。レイニラを演じるエマ・ダーシーとアリセントを演じるオリヴィア・クックは、それぞれの役により適している。二人は強い相性と明白な相手を引きつける力を持つことで、視聴者を惹くようなキャラクターを演じている。この教会でのシーンからみると、二人は同じものを望んでいることは明かだが、すでに手に負えない状況に陥っている。
エピソードは動揺させるような暴露で幕を閉じる。ヴィセ―リス王の臨終の言葉はレイニラではなく、エイゴンが世継ぎになる希望だったと間違いない、と誓うアリセントはある重要な言葉を明かす:「約束された王子」。驚いたレイニラはショックの表情。レイニラは必死でアリセントに勘違いを説明しようとする。ヴィセ―リスが名乗っていたエイゴンはレイニラの臆病者の異母弟ではなく、初代エイゴン征服王のことだったと。レイニラの言葉を信じないアリセントは自分の誤りを認めずに教会を去るが、彼女の困惑した表情を見ると本人は重大な間違いを犯したことに気付き始めていることは明かだ。ターガリエン家がもっとオリジナルな名前を考えればこんな大変なことにならなかったのに...
最後に
このエピソードはアクションよりも対話のシーンが多いが、スクリーン上のバイオレンス描写を自制することは時として良いことでもある。『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』は決してパーフェクトではないが、観ていて退屈ではない。とりあえず、私はこれまでのビルドアップは壮大なドラゴンの戦いとメジャーな登場人物の死に繋がっていると信じることにしている(裸のエイモンドも再び登場するかも...?)。
写真提供:HBO
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