字幕とは面白い存在だ。テレビのスクリーンに出る小さな文字だが、対立要因でもある。音が聞こえないお父さんと映画を観るとき、または字幕を使用する国際映画がアカデミー賞にノミネートできるのか、字幕となると様々な場面で人の意見が分かれている。
通訳は、現実の世界で使われている字幕みたいなものだ。言語が通じない話し手が二人いるなか、コミュニケーションは取れないが、ある重要な人物がいることでお互いに理解することが可能になる。しかしその話の内容がどこまで正確に伝わるのかは、主観的なこと。私は現在通訳者として活動しているため、この仕事の難しさと様々なチャレンジを実際に経験している。
FXシリーズ『SHOGUN 将軍』は、この役割の複雑さを深く分析し描いている。プレミアエピソード「按針」に登場するジョン・ブラックソーンは、日本語が一つも分からないイギリス人。網代村の海岸に遭難する彼は、船員たちを冷たく迎える日本人の言っていることが理解できない。ポルトガル出身の宣教師や司祭を加えると、さらに多言語の環境になってくる。

はじめに
このシリーズはアメリカの作品であるため、キャラクターが使う言語が英語と日本語であることは当たり前。シリーズの対話は、およそ4割が英語、6割が日本語だと思われる。しかし、当時の実際の『SHOGUN 将軍』の世界では、英語は使われていなかった。ポップカルチャーマガジン『ヴァルチャー』(英語のみ)によると、「英語を話しているシーンでは、実はキャラクターはオランダ語(ブラックソーンと船員たち)、またはポルトガル語(ブラックソーンと侍、鞠子など)を話している。」
多様な言語が混ざっていて少し困難する状況だが、シリーズ自体は英語と、時代劇に適している日本語のみ使用している。日本語の場面にはもちろん英語の字幕が付いて、その逆もまたしかりである。複雑でもあるが、その代わり通訳をする人物がより印象に残る。マルティン・アルヴィト司祭はポルトガル出身のジェスイットであり、江戸時代に使っていた言葉「通事」と呼ばれている。戸田鞠子様は按針と虎永の間の主な通訳をしている重要な貴族生まれの女の人。網代村にいる「村次」は、虎永の侍とスパイとして秘密に活動し、鞠子と同じくポルトガル語がペラペラ。二人はクリスチャンの宗教によりポルトガル語を話せるようになった。彼らの通訳スキルは、殿の重要な支えになる。

通訳とは一体…?
プロフェッショナルの世界では、通訳は2種類ある:逐次通訳と同時通訳。逐次通訳の方が多いが、『SHOGUN 将軍』の世界では両方使われている。逐次通訳の場合は、発言者が話終わった際に通訳者が入り、目標言語で話の内容を相手に伝える。流れ的に一人づつ順番に話すフローになる。このような通訳はアルヴィト司祭と鞠子が使用している。多くのシーンでは、ブラックソーンが話終わった後に虎永様やその他の関係者に彼の言葉を日本語で伝えている。
同時通訳の難しさとその美しさを表すある素晴らしいシーンは、第6話「うたかたの女たち」にある。ブラックソーンと鞠子は、二人で網代の茶屋に行き、お菊に会いに行く。二人の間の緊張感に気づくお菊は、うたかたの世に来る人達の目的を丁寧に説明する。「こちらにおいでになる方は皆様忘れたいものをお持ちでございまする。退屈、痛み、苦しみ、落胆。皆様ここは快楽に溺れるための場所と思うておられまする。それだけではないのでございまする。」

密接な通訳
鞠子がお菊の言葉をブラックソーンに伝えるなか、カメラは鞠子だけが映るようアングルを変え、お菊は背景に消えて行く。二人の重なる声も薄くなり、鞠子の声だけが聞こえるようになる。この変化により、このシーンはまるで鞠子とブラックソーンの間のプライベートな一瞬になる。彼女が最後に「解き放たれた私…今ここで私と一つになってくださいませ」と言い、ブラックソーンはずっと彼女だけを眺めている。
通訳では一人称と三人称、どちらを使えば良いか色々と議論はあるが、これは最終的に通訳者が決めること。「〇〇さんがこう言っています」よりは「私は…」を使った方が通訳している時間が数秒減るが、状況により伝えたい内容が困難する可能性もある。『SHOGUN 将軍』では、鞠子は普段「按針様は…」「虎永様は…」と文章を始め、三人称を使っている。
だがうたかたの世でのシーンでは、あまり使わない一人称に変わることでブラックソーンとさらに密接な会話ができる。元はお菊の言葉だが、お菊は二人の間の関係を良く理解している。二人の許されない愛情の気持ちに気付き、二人が安心して気持ちを伝えられる環境を作ってあげている。鞠子はこれに気付き、その伝えている言葉の重さを感じる。美しいシーンだが、悲しくもある。鞠子とブラックソーンの気持ちはこの世では禁じられているもの。

ブラックソーンの罵り言葉
鞠子がブラックソーンと虎永、藪重などの間の会話を通訳するシーンはたくさんあるが、正式なトレーニングを受けている通訳者からの目線ではこれらのシーンはとても興味深い。あるシーンでは、ブラックソーンの言っていることが個人的な確信と異なっていても、彼の言葉を全て正確に虎永に伝えている。例えば、按針がマカオでのポルトガルの秘密基地を明かす時は、彼女は一瞬ためらうがちゃんと虎永にそれを伝えている。一方、彼の言うことをほとんど通訳していない。例えば、彼の得意な罵り言葉や侮辱、または実は日本人に教えることができる戦術の知識はない、との恥ずかしい真実を鞠子ははっきり相手に伝えていない。
鞠子は、無茶なことを言わない、とてもクールで落ち着いた人。元々感情を強く表さない人でもある。彼女の通訳は同じく、考え深い、その状況に合わせて適している通訳である。しっかりしたプロの通訳者と同じく、視聴者や話し相手に伝えるメッセージは自分の意見や気持ちの影響を受けていない。第2話「二人の主君に仕えて」でこれは明らかに見られる。按針がポルトガルの裏切りを虎永に伝える時、鞠子は自分の宗教に繋がっている頼もしい人たちがこのような事をするのは信じられないが、ためらっても真実をちゃんと虎永に伝えている。殿への忠義により正直である。
一方、ポルトガルのジェスイットはそう正直ではなく、偏った考えを持つ。アルヴィト司祭は鞠子に認められた正直な通事だが、第1話に登場する網代村の司祭はブラックソーンと出会い、すぐに按針の言葉を勝手に変え、按針を処刑しろなど自分の為になるようなことばかりを藪重に伝える。通訳とは通訳者によって正確である・ない対照を描くことで、さらに面白くて興味深い描き方になる。

鞠子のミーム
『SHOGUN 将軍』が公開されてからは、ネットで様々なミーム(インターネットを通じて広まる情報)が人気になっている。多くのミームは藪重、ブラックソーン、虎永などをからかっている。この中で一番面白いと思ったミームは、「按針様は…」の鞠子ミーム。これはアメリカの視聴者の中で結構人気になっているX(旧ツイッター)の冗談。私のお気に入りはこちら:

ブラックソーン:「レッドロブスター」レストランでやっている「エビ食べ放題」キャンペーンは、実は「食べ放題」ではない。エビにはリミットがある。レストランの人物は嘘つきだ!懲らしめるべきだ!
鞠子:按針様はエビのことでイライラしています。
このようなミームは鞠子の通訳スキルをからかっているが、シリーズが描く通訳について面白いアイデアを浮かばせている。ブラックソーンは普段あれこれ怒っているが、鞠子はその多くの言葉を虎永に伝えていない。何故?その理由は、鞠子の真っ直ぐな性格にある。
鞠子の通訳スキルを責めているわけではなく、彼女の簡潔さを表している。鞠子は視聴者に伝えるべきことのみにブラックソーンの話を絞って通訳している。ブラックソーンはポルトガル人が嫌いだといつも言っているが、この個人的な争いは虎永には関係ない。殿はポルトガルの影響をどちらかと言うと気には入ってないが、そのパワフルでお金持ちの軍勢と戦うことは無茶だと分かっている。鞠子は才能ある通訳者のように、格言葉を伝えるよりも、正確で簡潔なメッセージを伝えることが一番大事だと理解している。
『ヴァルチャーマガジン』(英語のみ)にインタビューされた、『SHOGUN 将軍』のアソシエイトプロデューサー・言語コンサルタント・報道機関翻訳者・インタビュー通訳者、宮川恵理子氏はそのミームを見たか聞かれた。彼女はこうコメントした:
「通訳者とは外交官みたいな存在。撮影で活動する通訳者を雇うことが私の主な仕事。スキルが高い通訳者であるうえ、外交官のように人と人の間を取り持つことが果たせる人が大事だと思う。その能力により全てが前に進む。良くも悪くも、それがこの仕事だ。」
ー宮川恵理子氏

最後に
通訳とは非常に難しいこと。語彙が得意で沢山の単語を知っているけど、ロボットのような話し方で硬い感じの人もいれば、専門用語は苦手だけど個人間通信が優れている人もいる。『SHOGUN 将軍』は通訳の多様性を上手に描いている。通訳は他人の言葉を変える力もあり、控えめの方が効果的な瞬間もある。英語と日本語両方話せる人として、シリーズに登場する対話と字幕を比較することがとても面白い(いつも直訳のわけではない)。
バイリンガルでなくても、『SHOGUN 将軍』の世界はとても興味深く、登場人物の展開も素晴らしく出来上がっている。安針と、彼が辿り着いた不思議な国の住民達の間には言語の壁はあるが、その世界はどの言語で観ても魅力的な物語を築いている。
写真提供:FX
スナイダー・オリビアは米国出身の日系アメリカ人。現在は日本在住、バイリンガル(英⇔日)翻訳・通訳者として働いている。趣味はスノボ、ハイキング、旅行、そしてグルメ巡り!
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