【解説】『SHOGUN 将軍』が描く生死

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「空や海、大地にも死は存在する」

ー鞠子

『SHOGUN 将軍』の第4話「八重垣」では、初めて地震を経験したブラックソーンに鞠子はこの言葉を伝える。ブラックソーンにとっては、地面が揺れることは新たな感覚だが、鞠子はすでにこの出来事に慣れている。彼女にとって日本でよく起きるこのような自然災害は、人間としての無力さをただ思い出させるもの。

このシリーズは、「生」と「死」のテーマを深く分析し、登場人物の行動や意欲を通して描いている。藪重のように何をしても生き残りたい人がいれば、鞠子のように死を望む人もいる。皆は生きること、死ぬことで何を手に入れようとしているのか?生きたい・死にたい理由は何なのか?死ぬ後は何が残るのか?

後者の質問に関しては、誰にもその答えは分からない。だが、『SHOGUN 将軍』の登場人物は皆その答えを探し続けている。

切腹の象徴

「腹切り」とも呼ばれる切腹とは、自分で腹を切って死ぬこと。アメリカ育ちのカルチャー的な環境では、切腹は名誉ある死に方ではなく、ほぼジョークのような扱い方だった。例えば、学校のテストで悪い点数を取った生徒は、厳しいアジア系の親をからかって「家帰ったら切腹をしないと」と冗談を言った。歴史的な立派な死に方ではなく、笑えるような無駄死ににしか思えなかった。切腹に対する考え方がおかしくなってしまった。

だが、『SHOGUN 将軍』で実際切腹をするシーンを観てきたことで、またこの考え方が変わっている。からかうより、尊敬するべき行動だと思えるようになった。シリーズで初めてこの「名誉ある死」の概念が描かれる瞬間は、プレミアエピソード「按針」で藪重が海に落ち、溺れそうになるシーン。藪重は刀を抜き、覚悟した表情で暴れる海と向き合う。最終的に藪重はぎりぎりで助けられるが、この行動を崖の上から目撃するブラックソーンにとっては重要な展開となる。

ポップカルチャーマガジン『ヴァルチャー』の『SHOGUN 将軍』第1話レビュー(英語のみ)では、藪重の行動とブラックソーンの考え方についてこう書いてある:

「ブラックソーンは、エラスムス号の船長の自殺をただ諦めた男の卑怯な行動だったと思っていたが、波と戦うなか切腹を選ぶ藪重を見て、船長の死に対して思えなかった、自害する勇気と覚悟を初めて知る」

ジェシー・ラウブ、『ヴァルチャー』

冗談やジョークを超えるもの

アメリカや欧米では、現代では侍の生き方や文化をからかうメディアが多いが、『SHOGUN 将軍』は切腹することを「自ら宿命と向き合う」ものとして、そのまま描いている。シリーズのプレミアでは、藤の夫忠義(ただよし)は、大老衆に侮辱される殿を庇う意志で刀を抜く。だがこれは戦争行為となり、そのお詫びとして忠義は切腹をし、まだ赤ん坊の息子も共に死んでもらうことが命じられる。

多くの人の意見では、何も罪がない赤ん坊を殺すことは考えられないほどの不正。ブラックソーンが第4話「八重垣」で言うように、「子どもに戦いなどない」。だが忠義とその幼い息子が死ぬ時がくる瞬間は、誰も反対しない。この場面で多くの欧米の視聴者は驚いたと思うが、『SHOGUN 将軍』がこのシーンで最も伝えたいメッセージは、切腹とは無駄死にではないことだ。忠義は大老衆の前で刀を抜いた瞬間、自分の死が決まっていることを分かっていた。その覚悟は虎永も鞠子も理解している。最初は反対していたが、それをようやく受け入れる藤も分かっている。切腹は諦めることではなく、自分の信じる大義に向けての最後の戦いだ。

抗議する死

抗議及び反発するために切腹をする行動は、戸田広松と鞠子の死にもみられている。虎永の降伏する見せかけを見破った唯一の人物広松は、殿の降伏を反対し、虎永とその場に集まった武将皆の前で自分の腹を切る。血が流れるなか、文太郎は自分の父をためらわずに介錯する。広松が切腹をした理由は、皆が紅天を賛成するようこの犠牲が必要だったと分かっていたから。同じく、大阪城を出ることが許されない鞠子は、他人への影響を含めて状況を理解し、自害すると約束する。

『SHOGUN 将軍』の世界では、自害することは臆病な行動ではなく、自分の運命から逃げることでもない。ブラックソーンのような部外者の視線からは、自害は虚しいこと、無駄な死に方だと思ってもおかしくないが、シリーズでは誇り高く思える死として描いている。本人にはこのような立派な死に方は与えられなかったが、吉井長門がいつか言ったように「見事に死んでみせる」ことだ。

藪重の最後の日々

鞠子以外の多くの登場人物は、生き続けることを望んでいる。権力、領地、財力、軍勢、または何千年も続くレガシーを手に入れたくて生きようとする。この登場人物の中で一番生きたいという意志がある人、しかもその意志を一番はっきり表している者は明らかに薮重。薮重は何度も周りの味方を裏切り、様々なズルい策略を利用して自分の首ばかりを助ける行動が多い。こいつは何回遺言を書き換えてもらうんだ⁈

だが皮肉なことに、藪重はフィナーレまで生き残るが、鞠子の死因と直接繋がった彼の裏切りが虎永に明かされ、切腹することになる。この終わりは、編集長ベンジャミン・ローズが第4話から正確に予想していた。藪重はこの死に方を受けるに値するのか?私はそう思う。シリーズのフィナーレでは、虎永は全てを手に入れた。関ヶ原の戦では石堂が負けると知っている。落葉の方と世継ぎとは同盟を結んでいる。「胸の奥に秘めたお心」の中では、将軍となる運命を果たすことを知っている。藪重はこの未来を殿の側で迎えることはできたが、過去の行動によりこれは許されない。「本当のことを語ってくだされ」と頼む藪重には、虎永はただ「死人に先々の話をして何とする?」と言う。それを聞く藪重は素早く自分の腹を切り、虎永に介錯される。ある意味で、藪重の死はシリーズの中で一番不当な死だったかもしれないが、相応しい終わりであった。

苦しむ鞠子

一方、鞠子は生き続けることを望まず、家族や愛する父親について行って死にたいと何度も周りの人に伝えている。だが夫の文太郎、そして殿の虎永にこの望みは拒否されるが、その二人には拒否する理由が異なる。文太郎は夫と息子、つまり新しい家族と生き続けることはなぜ鞠子にとって物足りないのか理解できない。逆に、虎永は自分の勝利を決めるため、鞠子が死ぬ一番良きタイミングを測り、大老衆の元に大阪城へ彼女を派遣する。その時には、鞠子は自分が果たすべき使命をよく分かっていた。生きていた間、死ぬ準備をずっとしていた人の覚悟を彼女にはある。

なぜ鞠子は自殺をしないのか?逃げるか、許可を求めずに死ぬほうが楽なのでは?だが鞠子はこれが不名誉な行動だと分かっているうえ、これ以上自分の家族の名を汚したくない。自害することも彼女が信じるクリスチャンの宗教に許されないこと。殿に最も忠実である鞠子は、手が震え、宗教の決まりにより地獄に落ちることを分かっていても、石堂に止められるまで、大阪城での自害の約束から逃げようとしない。

だからこそ鞠子の死は不当な感じもしたが、それは絶対に起きるべき運命であった。鞠子はいずれ殿のため、父のため、自分の残すレガシーのために死ぬ宿命だった。その終わりを迎えるのはただの時間の問題だった。鞠子の自害が石堂に止められ、ブラックソーンと一緒に寝る間やっと城内も平和な雰囲気になっていたが、藪重の裏切りと潜入した暗殺者によりそれは長くは続かなかった。だが、鞠子の犠牲のお陰で虎永は望んでいた勝利を手に入れる。

「わしは女子を一人送り込み軍勢にもできぬことをさせたのじゃ」

ー虎永

全てに存在する死

現代の日本でも、空や海、大地には死が存在し続ける。地球温暖化と海水温度の上昇の影響により、地震と津波はより高い頻度で起きる。家も数年で倒壊し、またすぐに新しいものが建つ。だがこの自然災害が増える中、驚くことに日常生活はいつも通りに続く。2011年に起きた東日本大震災以降、日本人はより自然災害予防策を講じるようになったが、一般的に起きる「死の象徴」は注目されない。

例えば、私が住む地域では年に1回は北朝鮮から発射されたミサイルが空中を飛び、この地域を超えてから太平洋に落ちる。市内中に鳴るサイレンはまるで第二次世界大戦の映画に出てくるような由々しい音だが、通勤する車やランドセルを背負って学校に向かう子ども達はやっていることを止めない。外はいつも通りの様子のままだ。これを不思議に思った私には、地元の日本人の友達はこう言っていた:「何年か前はもっと定期的に起きてたことだから、今はもう皆慣れてるよ」と。やはり鞠子の言葉には真実味がある。

「この世に生まれやがて死ぬ。私たちはなすすべもない。」

ー鞠子

写真提供:FX

スナイダー・オリビアは米国出身の日系アメリカ人。現在は日本在住、バイリンガル(英⇔日)翻訳・通訳者として働いている。趣味はスノボ、ハイキング、旅行、そしてグルメ巡り!

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