文:ベンジャミン・ローズ (Read in English)
訳:スナイダー・オリビア
スコア:90点
超刺激的な新シリーズ!
FX『SHOGUN 将軍』をネットで検索すれば、あの大人気の『ゲーム・オブ・スローンズ』並みの素晴らしくて刺激的なシリーズだ、と褒める記事やレビューが沢山でてくる。確かにこの比較は間違ってはいないが、この意見は『ゲーム・オブ・スローンズ』の残念なファイナルの第8シーズンなどのデメリットを軽視している。ファイナルシーズンがくる前にも、1~4シーズンをかけて丁寧に作り上げた複雑で面白いストーリーは、作家ジョージ・R・R・マーティンの本で書かれた内容の続きがなくなった時点で素早く崩れていた。最後の方には、デナーリスが次々と人を焼き殺すシーンばかりだった気もする。
一方、『SHOGUN 将軍』は第1と2話を観るだけでここ10年で一番良くできているテレビドラマであることが明らかだ。『ゲーム・オブ・スローンズ』に比べると、アリアが夜の王を倒す微妙に訳が分からないストーリーではなく、ティリオン・ラ二スターがタイウィンを殺し、ブラーボス行きの船に乗って出発したような最高に面白くて劇的なエピソードに最も近い。『SHOGUN 将軍』の全ては非の打ち所がない。
舞台は1600年。当時のイギリスでは、女王エリザベス1世の45年間続いた統治が終わる頃。劇作家ウィリアム・シェイクスピアは『ハムレット』を制作中。オランダでは、ハプスブルク家がネーデルラントから追い出され、ネーデルラント連邦共和国が北欧の大邦として登っている。ラテンアメリカでは、ポルトガルとスペインが新世界の征服を強化している。そして日本では、数え切れない黒澤明監督の映画に描かれている、ほぼ150年間続いた不法と内戦に満ちた戦国時代がやっと終わりを迎えている。世界中に変化が起きている。ハゲタカが集まり始めている。そこで虎永が登場。

写真:虎永が五大老と面会する
言葉は武器
吉井虎永という人物は、五大老の一員で、1年前に亡くなられた太閤の一番強くて信頼されるもの。彼には、太閤の若き息子中村八重千代が日本を統率する年頃になるまで、八重千代の教育と擁護が任されている。ただ一つの大問題がある:虎永のライバル石堂和成は、最近日本に取り入れられた宗教カトリシズムへの改心者となった五大老の残り3人を、虎永を反対するよう統べ合わせた。虎永は大阪城で虜となり、五大老による弾劾とそれに続く死の命令をただ待ち続ける。
暴力を使わずに緊張感と緊迫の感情をはっきり描く天才的なシーンで、真田広之が演じる虎永はライバル達と向かい合って言葉の戦いに臨む。だが虎永が侮辱されるなか、彼の侍が一人その殿に対する不敬に耐えられず、虎永を庇い立て、一瞬でその場は血まみれな戦場になりそう。多勢に無勢だと分かっている虎永は、家臣を𠮟責し、その侍は恥を忍んで切腹し、子孫も共に死んでもらうと誓約する。
このシーンをはじめに、『SHOGUN 将軍』は脚本の知的素養をみせてくれる。脚本は長い2年間をかけて書かれたもの—傑作と呼んでもおかしくないでしょう。英語と日本語での会話や字幕を平等に理解して評価されるよう、脚本は両言語に翻訳され、何度も修正された。今の予想では、4割が英語で6割が日本語。1980年の『将軍』シリーズは、ジョン・ブラックソーンのキャラクターが登場しない多くのシーンをカットし、多くの日本語も翻訳しなかったが、2024年の『SHOGUN 将軍』は最初から最後まで両言語の字幕をしっかり付けている。これによってオリジナルシリーズのヨーロッパ中心主義さも減っている。対話が多いシリーズで退屈なシーンがなく、全てのシーンが興味深くて注目するべきであるからこそ、作者の近藤レイチェルとジャスティン・マークスの才能が脚本で輝いている。

写真:ブラックソーンとロドリゲス
宿命
オリジナルに比べて観点を広げたことで、『SHOGUN 将軍』は俳優およびプロデューサーとして最も適している人物、昔から侍役としてハリウッドで人気ある俳優、真田広之に最高の役を任せている。真田氏は時代考証の重要なコンサルタントとして活動もした。
真田広之が初めてハリウッドで人気を集めたのは、2003年のトムクルーズ映画『ラストサムライ』で演じた侍達の真面目なリーダー格、氏尾役。あの頃は共演者の渡辺謙が洋画業界の中で一番有名な日本人俳優だったが、この20年間真田広之は渡辺謙を超えたといえる程人気を集めてきた。彼が演じる政治家のキャラクター全ては、信頼するものに対する穏やかで礼儀正しい態度と、敵を出し抜き壊滅する打算的な冷酷さを上手くバランスしている。
近世日本の「戦国三英傑」の3人目として有力な人物であり、近現代まで260年間続いた王朝を築いた歴史上の徳川家康を元とした登場人物虎永。真田氏が言うには、虎永は「平和を望んでいる戦士」。『ジョン・ウィック:コンセクエンス』で真田が演じたシマズ・コウジと同じく、虎永は尊厳で優美な男だが、恐るべき権力を持つ。
だが虎永は、ネッド・スタークかのもっと有能版かのように、吝かな英雄であり続け、五大老のライバルに対して不利な立場にあることを痛感する。将軍称号を最後に行使した歴史上の源に基づく蓑藁家の先祖の血を引く虎永は、そのレガシーを継ぐ意志はないようにみえるが、彼の宿命は明かにその方向に向いている。虎永はその運命を受けるか、死ぬかを選ばなければならない。

写真:ブラックソーンが薮重を挑戦する
按針の登場
そう迷う中、新たな機会が虎永の目の前に現れる。虎永の弾劾が迫ってくる間、病気で飢えているプロテスタントヨーロッパ人の船員が乗ったオランダの海賊船が網代の海岸に遭難する。網代は虎永の佞姦で少しイカれている家臣、樫木薮重がコントロールする漁師町。薮重を演じるクレイジー俳優佐藤忠信にとっては最高な役だ。
ヨーロッパ人の船員は素早く村のものに囚われるが、驚くことに村に暮らすカトリックの宣教師達はすぐ海賊どもを殺せ、と騒ぐ。プロテスタントのジョン・ブラックソーンは十字架を見て唾を吐く。この不思議なヨーロッパ人同士の争いを目撃する薮重は、このクリスチャン達には見かけ以上のものがあると気づき、ブラックソーンを石堂に売って虎永を裏切る計画を立て始める。
だが、網代に住む日本人クリスチャンの間者が虎永に船の遭難のニュースを漏らし、薮重の計画が崩れる。虎永は家臣の戸田広松を網代に派遣し、ブラックソーンを無理矢理大阪に連れて行く。こうして虎永はカトリックの五大老の間に不和の種をまくことを計画し、船にあったヨーロッパの銃砲も手に入る。
大阪行きの船では、ブラックソーンは新しくできた半分友人、半分敵のポルトガル人船員ヴァスコ・ロドリゲスから日本について学ぶ。ロドリゲスはブラックソーンの排外主義を嘲笑する一方で、対立を深める両国の宗教、政治、経済の違いを前面に出している。その間、網代で薮重はヨーロッパ人船員を一人生きたまま熱湯に入れ、非常に残酷な死に方で拷問し殺す。船員の悲鳴が村中に響くなか、薮重はその場で侍に蛮人の死を記念する短歌を作れと命じる。

写真:薮重と侍
的確・包含的・優秀
『SHOGUN 将軍』は、洋画業界の中では最もアジアを中心にしたドラマの的確さを大事にしている。インパクト強くてダイナミックな日本人のキャストがしっかり代表されているうえ、オリエンタリズムと白人至上主義のレンズを避けようとする試みを妨げる退屈な要素も含めていない。
コスモ・ジャーヴィスが演じるジョン・ブラックソーンは、1980年に公開された『将軍』シリーズのブラックソーン(リチャード・チェンバレン)ほどドラマのストーリーの中心にはなっていない。だがジャーヴィスのブラックソーンは他のメディアに登場する不器用で馬鹿な外人キャラクターではなく、青い目をした悪魔でも、白人の救世主でもない。男らしく、カリスマチック悪賢い残酷さも時に表すキャラクターを描き、それはまるでトム・ハーディのようだと言われている。でもこの知らない国にいる日本人は、ブラックソーンをヒーローではなく、無礼な蛮人だと思う。
大阪に行く最中に嵐に遭い、ロドリゲスは海に落ち、崖下の海岸まで流れてくる。ロドリゲスを助けようとするブラックソーンは、侍が持つプライドと義理を意識し、ある意味敵である薮重にロドリゲスの危険な救助をチャレンジする。薮重が溺れそうになる瞬間、彼は刀を抜いて切腹をする準備をするが、なんとか助かる。自ら命を落とす覚悟を目撃して驚くブラックソーンには、ロドリゲスは「宿命」の観念を説明する:自分の運命を受け入れること。
嵐を見事に抜けたブラックソーンの按針としてのスキルの価値を理解している薮重は、ブラックソーンを殺そうとする広松を止める。このように、『SHOGUN 将軍』は単純化された道徳のメッセージを避け、偏見と尊敬が同時に存する中文化的対立のニュアンスを上手く描いている。虎永がブラックソーンを利用してカトリックと対決する計画と同じく、ブラックソーンは敵であるポルトガル人との争いのために虎永を使いたい。皆それぞれ私利の為に何かを企んでいる。

写真:戸田鞠子
女と争い
第1話で登場するシーンは少ないが、澤井杏奈が演じる戸田鞠子は重要なキャラクターであることが直ぐに明かになる。鞠子は日本人カトリック、利口なバイリンガル通訳者である。彼女は虎永の家臣との結婚を通じて殿と繋がりがあり、戸田広松の義理の娘である。切腹が命じられた虎永の家臣の妻藤が、赤ん坊の息子が夫と共に死んでもらうとの命令を逆らい、自分の首に短刀を当てる迫力あるシーンでは、鞠子は殿に対する忠誠を理由として、藤を止めてその運命を受け入れなさいと優しく藤に告げる。
言語の架け橋となった鞠子は、恐らく欺瞞的なポルトガル人、殿の虎永様、そして彼のライバルとの争いの中に絡まれるでしょう。その中、彼女の日本人とクリスチャンの両方のアイデンティティが試される。第1話に登場する鞠子はインパクトが少ない方だが、澤井杏奈の演技では将来のエピソードに出てくる鞠子の性格が明らかだ。彼女には鋼鉄のような強さ、器用さ、そして計算高い知性のために絶対的な規律を利用する能力があり、残忍な家父長制が敷かれた前近代社会で男性に堂々と立ち向かうために必要な大胆不敵さが備わっている。後からブラックソーンと恋にも落ちるが、澤井の鞠子は有能な政治家の能力を持ち、性別による制約を覆すことができる。
最後に
舞台は整っている。盛大な衣装から丁寧に建てられたセット、政治的な陰謀、残忍なバイオレンス、『SHOGUN 将軍』には全てがある。このシリーズの自信満々さが各エピソードで輝いている。興味深い時代劇と素晴らしいエピックドラマを一つにしたこのシリーズは、きっと『ゲーム・オブ・スローンズ』の頂点を超えるでしょう。
写真提供:FX
ベンジャミン・ローズはワシントンD.C.出身の詩人。『エレジー・フォー・マイ・ユース』と『ダスト・イズ・オーバー・オール』を2023年と2024年に発刊。アメリカカトリック大学で英語学を専攻し、2023年にオへーガン詩賞を受賞。2019年から「ザ・パス」のブログを編集している。彼の本はこちらから購入可能。
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